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イオン、スーパー事業の利益「ほぼゼロ」が意味する深刻さ(Business Journal)


  
    イオンの店舗(「Wikipedia」より/アレックス)


 イオンは日本最大の小売業グループだ。昨年度の売上高は8.2兆円。今年度上半期決算では4.2兆円をたたき出している。にもかかわらず、グループが稼ぎ出す営業利益は昨年度が1847億円、今年度半期決算で850億円と、はっきり言えば業績はぱっとしない。

 そして重要なことは日本最大であるがゆえに、イオンは日本の小売業全体の縮図であるということだ。イオンは巨大スーパーからコンビニエンスストア、ショッピングモール、専門店とあらゆる小売業態を経営している。

 つまりイオンの業績がぱっとしないということは、日本の小売業界全体としてぱっとしないということだ。もちろん業界他社ではセブンイレブンやユニクロのように儲かっている小売業もいる。しかし、なぜ小売業全体としては儲からなくなってしまったのだろう。

 この謎を解く手がかりが、イオンの開示資料にある。実はイオンは、それぞれ業態の違う会社の業績を細かく開示している。だから、イオンの業績の詳細を調べると、日本の小売業の何が儲かって何が儲からないのか、その裏側が見えてくるわけだ。

 ということで、今回はイオンの決算から見える日本の小売業の「苦境」について考察してみたい。「最新の」ということで、今年度上半期の決算資料をもとに何が起きているのかをまとめてみよう。

■アマゾンエフェクトによる苦境

 現在の小売業の苦境はインターネットのせいだという説は根強い。アメリカではネット通販の成長によって、リアルな小売店が悪影響を受ける現象をアマゾンエフェクトと呼んでいる。日本ではアマゾンに加えて楽天市場、ヤフーショッピングの3つのECサイトが成長するたびに、小売店は窮地に陥っている。

 この影響を端的に表しているのが、イオングループのスーパー業態の苦境である。上半期の4.2兆円の売上のうち、衣料品や生活用品を含む大型スーパー(GMS)の売上が1.5兆円、小型の食品スーパーの売上が1.6兆円で、この2つの業態でイオングループ全体の4分の3の売上高を稼ぎ出している。

 一方で、この小売2事業を合計した営業利益は4億円だ。3.1兆円の売上高で稼いだ利益が4億円である。なんともわびしい話ではないだろうか。

 しかし、こう問題提起をするとおそらく食品スーパーの責任者は「うちは108億円の黒字だよ。104億円の赤字を出している大型スーパー部門が足をひっぱっているんだ」と主張することであろう。

 そう、私から見れば五十歩百歩の“うすーい”業績なのだが、確かに食品スーパーはわずかに黒字、大型スーパーはわずかに赤字という業績の差が存在している。

 実はこの差は、アマゾンエフェクトをどれだけ受けるかの差である。食品スーパーは生鮮食品が売上の中核にある分、ネット通販の悪影響をそれほど受けないという強みがあるのだ。一方で大型スーパーの場合、生活用品、衣料、寝具、電気製品などネット通販に顧客を奪われたり、安売り競争に巻き込まれたりという悪影響を受けやすい商品の比率が高い。ダイエーが“産業再生機構行き”になった際にも「食品スーパーだけに集中すれば生き残れる」という議論があった。それくらいアマゾンエフェクトは小売業の業績の足をひっぱっているのだ。

 ところがアマゾンは、アマゾンフレッシュを通じて生鮮食料品の販売も始めた。実はこの「食品スーパー事業だけは黒字」という状況もいつまで続くのかはわからないのだ。

■コンビニエンスな事業は儲かる

 大手小売業で一番気を吐いているのは、イオンのライバルであるセブンイレブンだ。一方のイオングループにもコンビニはある。ミニストップだ。

 ミニストップの業績は上半期で1056億円の売上高で14億円の黒字と、利益率では食品スーパーよりもずっといい。しかし、規模的にはセブンイレブンに大きく差を開けられているせいで、利益額は全体に大きな影響を与えるほどのものではない。

 しかし、実はイオンにはミニストップよりもずっと規模の大きいチェーンストアがある。それがウエルシア薬局だ。いわゆるドラッグストアチェーン店である。

 アメリカには日本のようにコンビニ文化はない。セブンイレブンはアメリカから来たが、アメリカのセブンイレブンは日本よりもずっと数は少なく、コンビニといえば主にガソリンスタンドに併設された小規模小売店というイメージだ。

 ニューヨークの市街地を歩くとわかるが、コンビニに代わって日常の小さな買い物の拠点になっているのがドラッグストアだ。そしてウエルシア薬局は、このアメリカ最大のドラッグストアであるウォルグリーンズのビジネスモデルを参考に日本の薬局を再編した小売業態だ。

 ウエルシア薬局を束ねるウエルシアホールディングスはイオングループの一員であると同時に、東証一部上場企業であり、16年に売上高でマツモトキヨシを抜いて現在は日本のドラッグストア業界首位の地位にある。

 ウエルシアの上半期業績は売上高3407億円、営業利益145億円。「イオンからスーパー部門を売り払ったほうが儲かるんじゃないか?」と思わせるぐらい、業績がいい。

 コンビニの語源はコンビニエンス、つまり英語で「利便性がいい」という意味だ。日本で今、儲かる小売業は利便性がキーワード。なぜなら「今すぐに」という利便性が求められる消費にはインターネット通販のつけこむ余地は少ないからだ。そしてドラッグストアもその強みは利便性にある。だからイオングループの小売業の中で一番儲かっているのがドラッグストアだという結果につながっているわけだ。

■小売よりもずっと儲かるビジネスがある

 では、ウエルシアがイオングループで一番儲かるビジネスなのかというと実はそうではない。イオングループにはそれよりもずっと儲かる3つのビジネスがある。

 実はイオングループで一番儲かる事業は金融事業。イオン銀行、WAONによる電子マネー決済、クレジットカードサービス、そして住宅ローン。つまり個人と決済をキーワードにした金融事業が上半期の営業収益で1979億円、営業利益329億円とイオングループの稼ぎ頭になっているのだ。

 時代は確かにフィンテック(金融とITが融合した新ビジネス)の時代だ。そしてイオン以外でもセブン銀行や楽天カードなど、小売企業の金融部門は着々と各社の収益の柱へと姿を変えつつあるのである。

 2番目に儲かっているのがデベロッパー事業。つまりイオンモールの不動産開発事業だ。いい立地を見つけ、土地の権利を手に入れ、銀行資金を引き入れて巨大なショッピングモールを開発する。このビジネスモデルでは、入居するイオンの総合スーパーや各種小売店の利益を吸い上げる不動産事業のほうが、小売事業よりも確実に儲かっているのだ。

 そして3番目にこの不動産の管理事業も大きな儲けを生み出している。イオングループのビル管理事業会社は売上高1518億円、営業利益88億円。小さな企業だが生み出す利益はスーパー事業部門と比肩できるほどの収益性である。

■結論

 イオングループは日本の小売業の縮図である。全体を眺めてわかることは、ネット通販の悪影響を回避できる小売業でないと業績が苦しいことだ。アマゾンで買えるような商品を売っている小売業態は、すでに儲からないビジネスへと変わってしまったようだ。

 そして食品スーパーのように「今はまだ大丈夫」ということでぎりぎりの収益性で残っているビジネスが次は危ない。アメリカでアマゾンがホールフーズを買収したように、日本でもスーパーを買収して参入してくれば、アマゾンフレッシュが日本のスーパーの収益性を削っていくことになる。比較的安全圏にいるのはコンビニエンス(利便性)を強みにしている小売業態だけではないだろうか。

 さらに残念なことに、小売業をやるよりも、小売業者からお金を得るビジネスをやったほうが儲かるということだ。イオングループの稼ぎ頭が金融事業と不動産事業だという事実は、今の日本の小売業の苦境を一番わかりやすく語っているのかもしれない。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)